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防火規制と断熱サッシのデザイン



高気密高断熱住宅においては、一般的に「断熱サッシ」と呼ばれる断熱性能の高いサッシを開口部に使用しますが、防火規制のある地域では「防火設備」という法規制上の規格認定をクリアした断熱サッシを使用しなければなりません。

ここでは、防火規制のある地域で断熱サッシを使用する場合のポイントについて、KHアーキテクツでの実例をもとに解説したいと思います。



まず、市街地では多くのエリアにおいて、防火地域、準防火地域といった防火規制を指定した地域が、地方自治体により定められています。

そうした防火規制のあるエリアで新築の建物を建設しようとする場合には、窓等の開口部には「防火設備」の認定を受けた製品を使用する必要があります。


そのため、防火規制のあるエリアで断熱サッシを使用する場合も、必然的に防火設備の認定品を使用するのが前提となります。


断熱サッシの種類について大別すると、アルミ+樹脂製、樹脂製、木製の3種類があります。アルミ+樹脂製は日本の大手アルミサッシ・メーカーが得意で、樹脂製は海外メーカー、木製は日本の中小、ドイツ・北欧系メーカーが得意、というイメージです。

それぞれの方法で外部と内部の熱が伝達しにくくなるように工夫して製作されており、断熱性能の高いガラスと併せて使用することで断熱サッシとしての性能を確保しています。


またサッシで使用するガラスについてですが、サッシの種類にかかわらず、防火設備で使うガラスは、原則的にガラスに金属メッシュの入った「網入りガラス」を使用する必要があります。

網入りガラスは、火災の熱でガラスが溶融してしまう現象を遅らせることで、避難に必要な時間を確保することが出来ます。ちなみに防火設備の場合、20分間の耐火性能が求められています。

こうした理由から、防火設備のサッシでは指定が無ければ自動的に網入りガラスが入ることになるのですが、網入りガラスは15ミリ角程度の金属メッシュがガラスの中に入っているので、見た目の開放感はあまりなく、意匠的な観点からすると極めて不評なのが実情です。

おそらく、多くの方が網入りガラスのある建物を経験されたことがあると思いますが、格子状のメッシュがなんとなく牢屋のようで、閉塞感を感じられたことがあるかと思います。

こうした網入りガラスへの不満から、網入りガラスの代替となる「耐熱強化ガラス」という、耐熱強度を高めた上で見た目は透明なガラスを使用した防火設備の認定品が、ここ数年来、製品として登場してきています。

ただ、防火設備かつ耐熱強化ガラスかつ断熱サッシ、という条件をクリアしている製品はラインナップがまだ少なく、使える選択肢が限られているのが現状です。

また、耐熱強化ガラスのサッシと網入りガラスのサッシを比べた場合、耐熱強化ガラスの製品は製作可能なサイズがやや小さくなる点、コスト的に高くなる点に欠点があるといえます。しかし、そうした欠点をおいてもガラス本来の透明性を確保した、耐熱強化ガラスによる断熱サッシを使用したい、とご要望は多くあると感じています。




ここからは、防火設備かつ耐熱強化ガラスかつ断熱サッシ、という製品を使用した実例について解説したいと思います。





阿佐ヶ谷ライト・エコハウス」では、ライトコート側の窓にアルミ+樹脂製の断熱サッシを使用しています。

YKK apの「防火窓Gシリーズ」という製品ですが、耐火、断熱性能を確保しつつ耐熱強化ガラスが使用できます。

当時は3階建ての木造住宅に使用可能な防火設備認定の断熱サッシで唯一、耐熱強化ガラスが使用出来る製品でした。

現在は複数のメーカーでそうした製品が開発・販売されています。


ライトコート側から内部を見たところ。窓は全て耐火強化ガラスを使用しているので、網入りガラスが無く、スッキリと内部が見えています。この住宅では、ライトコート側の窓のみ耐火強化ガラスとして、内外の視覚的なつながりをつくり、開放感のある窓にしています。


内部からライトコート側を見た様子。

アルミ+樹脂による断熱サッシは外部はアルミ材、内部は樹脂材、と部材が異なります。これは内外で熱の伝播を遮断するためですが、内外の部材が異なるので、仕上げ色を内外で頃なる組合せに変えることが可能です。この住宅では外装、内装それぞれの色調に合わせて外部をブラック、内部をホワイトにしています。

サッシ色の調整は、地味で目立たないような調整ではありますが、室内がよりスッキリした印象になったかと思います。





奥沢エコ・コートハウス」では、樹脂サッシを使用しています。

こちらはクレトイシ株式会社の「モンタージュ」シリーズになります。モンタージュは北米発祥の樹脂サッシで、樹脂の部材を輸入して日本で組立て・製造しているそうです。

日本では20年以上の販売実績があり、樹脂サッシとしての歴史と実績がある製品のひとつといえます。こちらの住宅でも、主要な窓は耐熱強化ガラスとして、網入りガラスは極力目立たない箇所で使用するようにしています。

中庭側から内部を見たところ。写真で見えている窓は全て耐熱強化ガラスとしています。

ガラス面に見えている格子は装飾ですが、ペアガラスの中空層の中に入っていて凹凸がガラス表面には出てこないので、破損の心配が無く清掃もしやすくなっています。

モンタージュは北米発祥ということで、ツーバイフォーのコロニアル・スタイルの住宅デザインのような、洋風住宅を想定した製品バリエーションになっています。例えば、半円窓やベイウインドウ(台形出窓)といった洋風住宅によく見られる異形窓のラインナップや色も16種類から選択可能となっています。

この住宅では、北欧モダニズム住宅に見られる、木の仕上げを多用したモダンな空間としたかった点と、北米在住経験のあるお施主様のお好みも考慮した上で、モンタージュを採用しました。


中庭を2階ホールから見たところ。

2箇所とも出窓になっているので、壁が厚く見えています。こちらも格子窓になっていて、壁面の厚みやアーチもあいまって洋風のテイストのあるデザインとなっています。


一般的に断熱サッシは、気密性を高める為に重量が重くて接合部がキッチリ密閉されるので、サッシを動作させにくいという短所があります。この樹脂窓も全体的にガッシリしたつくりで動きもやや重いのですが、誤作動やお子様のトラブルを防ぐという意味では安全であるともいえます。

また、断熱サッシの種類や色によっては接合部に動作跡のスレのような傷がやや目立つケースがあるため、注意が必要です。



両プロジェクト共に、使用しているガラスはLow-Eガラスという、遮熱、断熱の為にガラス面をコーティングした複層ガラスを使用していますが、コーティングの色は見た目のナチュラルさを優先して、ニュートラル=色のついていないコーティングを選択しています。




以上、防火規制のあるエリアでの断熱サッシの使用について、実例をもとに解説しました。




改めて使用する際のデザイン上のポイントをまとめると、下記のような点があります。



・法規制の要件をクリアした、防火設備認定されている製品を必ず選択する。


・主要な窓では透明でクリアなビューを得られるように、耐熱強化ガラス仕様の製品を検討する。


・デザインのテイストや使用箇所の特性に合わせてアルミ、樹脂、木製等のサッシの種類を使い分けるように検討する。


・一般的なアルミサッシに較べて3~5倍程度のコストはかかるので、全体的な予算配分に注意する。




概して、防火規制のある地域では窓=開口部の自由度はかなり下がります。

ただ、現在は地球温暖化対策による省エネ規制の法整備が数年ごとに進む状況にあるので、断熱サッシの製品の開発も日進月歩で進んでいます。

こうした最新の情報をキャッチし、建築家と共にスタディしながら適切な製品・仕様を選択することが重要になるといえます。



断熱サッシやガラスの選択は比較的地味なデザイン要素ですが、居住性のクオリティを確実に左右しますので、十分に納得の上で選定されることをお薦めします。






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