「陰翳礼讃」から学ぶ、「黄金(金箔)」のアレンジメント



文豪・谷崎潤一郎の有名な随筆「陰翳礼讃」は、今から90年ほど前の1930年代に書かれたものですが、日本の伝統的な美意識を西洋文化との対比でわかりやすく解き明かした名文として知られています。


そして、近代の古典ともいえるその随筆の中には、黄金に関する記述が色々と出てきます。



ここでは、「陰翳礼讃」に見られる美意識と、そこから着想を得た「黄金(金箔)」の使い方について、実例をもとに解説したいと思います。



一般的に、「黄金」や「金箔」というと、金閣寺や秀吉の黄金の茶室のように、どことなく派手なイメージがありますが、使い方によって、上品で趣きのある効果をつくることが出来ます。



冒頭に挙げた「陰翳礼讃」の一節には、黄金について下記のような一文があります。



「諸君はまたそう云う大きな建物の、奥の奥の部屋へ行くと、もう全く外の光りが届かなかくなった暗がりの中にある金襖や金屏風が、幾間を隔てた遠い遠い庭の明りの穂先を捉えて、ぼうっと夢のように照り返しているのを見たことはないか。

その照り返しは、夕暮れの地平線のように、あたりの闇へ実に弱々しい金色の明りを投げているものであるが、私は黄金と云うものがあれほど沈痛な美しさを見せる時はないと思う。

- 中略 - 

現代の人は明るい家に住んでいるので、こう云う黄金の美しさを知らない。

が、暗い家に住んでいた昔の人は、その美しい色に魅せられたばかりでなく、かねて実用的価値をも知っていたのであろう。

なぜなら光線の乏しい屋内では、あれがレフレクターの役目をしたに違いないから。

つまり彼等はただ贅沢に黄金の箔や砂子を使ったのではなく、あれの反射を利用して明りを補ったのであろう。」




金襖や屏風のような調度品での黄金は、現代のような電気照明の明るい光でなく、陽光の届かない奥の間のわずかな自然光や、ロウソクのほのかな炎の光を想定した上で、反射板のような効果を狙って使用していた、というような要旨になると思われますが、こうした暗がりの中で見る黄金の微かなきらめきこそ、「陰翳礼讃」というタイトルから連想される代表的な事象のひとつといえるかもしれません。




この「陰翳礼讃」に記述されているような、暗がりの中で黄金色を使用するというアイデアは、現代の空間においても応用することが出来ます。






「RKマンション・ リノベーション」では、天井に金箔系クロスを使用しています。

こちらは、既存のマンションエントランスの改修でしたが、本物の金箔ではなく、ビニルクロスを使用しています。

コストや耐久性を考慮しての選択でしたが、自然光がほぼ入らない、暗かったエントランスの雰囲気を逆手に取り、間接照明でほのかに照らされる金箔仕上げを使用してみました。

壁面には人造オニキスを使用した照明を組み込み、既存の花崗岩の壁面仕上げや金箔と合わせて、イエローブラウン系の素材で統一しています。


金箔を使用したことで、単に暗い雰囲気のエントランスだったものが、暗がりの中に少し華やぎの感じられる空間に変わったものと思います。





マンション住戸のリノベーションである「代官山レジデンス」では、玄関ホールに金箔の入った和紙クロスを使用しています。

自然光のあまり入らない、マンションの玄関ゾーンの正面部分に、金箔地のあしらわれたパターン和紙のパネルを設置し、暗がりの中でもエントランスらしい、来客を招き入れるような華やかさをつくっています。

金箔のサイズや面積は大きくないものの、視点の移動や照明の当たり方によって、変化のある表情を楽しめる空間が実現できたものと思います。




以上、「金箔仕上げ」を活かした事例をご紹介しました。




「陰翳礼讃」でわかりやすく豊かな筆致で解説された、日本の伝統的な空間に見られる黄金の活用の仕方を、現代的に翻案してアレンジすることで、空間づくりのエッセンスを受け継ぎながら、新たな趣きのある空間が生まれるものと思います。

加えて、エコ的な視点からみても暗がりを活かすというのは、電気照明に頼りすぎないエコなライフスタイルをつくるという意味で、今日的な課題にも対応しているものと思います。





KHアーキテクツでは、こうした伝統的な空間のエッセンスを活かしてアレンジしながら、現代の生活にフィットする住まいづくりを行っています。





もしご興味ございましたら、お気軽にお問い合わせください。